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旅の記憶

屋台の女

異国で感じる孤独というのは、実に耐え難いものだ。

一人でいることが楽しいと思っていた。

一人でいれば誰かに気を使うこともないし、旅に出ればより多くの人と出会えると思っていたからだ。

フィリピンに来て、ようやく一日が経った。

この短い間に、語学学校に入学し、レッスンを受け、部屋も借りた。

部屋は高級マンションの一部屋で21階にある。

数えていないが40階はあろう。

受付が24時間駐在するエントランスがあり、6階にはプールもある。

またエントランスの他に何人か24時間体制でセキュリティガードが館内に駐在している。

これで家賃が一月15000ペソ、約3万円である。

もし日本で3万円で部屋を借りるとなれば、せいぜい築何年も経ち老朽化したワンルームのアパートくらいであろう。

当然プールもエントランスもあるわけがない。

部屋を受け渡されたほんの一瞬、日本では、ほぼ文無しに等しいが、ここフィリピンでは、これからちょっとした金持ちの気分で過ごせるかもしれないと思った。

だが、飯を食い、ビールを飲み、自分専用の寝室で一眠りし、ふと目が覚めたとき、言いようのない寂しさと孤独が胸のあたりをぐっと締め付けた。

なぜだろう、とても静かで、誰にも邪魔されない、21階の部屋の窓から見る景色はまさにシティービューで文句なく素晴らしいのに。

だが同時に、もう新しい宿で、驚く機会や世界中からくる旅行者達に会う機会を逃してしまったのだ、安全で静かな場所と引き換えに。

胸を締め付けたのは、静かで安全な場所は決して本当に私が求めていたものではなかったということの知らせだった。

そうわかると、後悔した。

シャワーをさっと浴び、葉巻でもふかして落ち着こうと外に出た。

夜は更けていたが、少なからず人は往来し、相乗りタクシーであるジープニーは乗客を乗せ、せっせと働いていた。適当に座れる場所を見つけ葉巻に火を点けた。

一口、また一口と葉巻を吸いながら、重苦しい、泣きたくなりそうな気分をどうしたらいいか考えていた。

通りの向こうには屋台が深夜にもかかわらず営業していた。

店主が一人、その横に、ぼんやりと座っている男が一人、反対側には若い女が二人座っていた。

しばらく彼らを見ていると、二人の内の一人、背が低く、やや太った女が、こちらに向かって手を振った。

なぜ手を振ったのかがわからず、手を振り返すでもなく、そのままにした。

ほんのしばらくするとまたこちらに手を振った。

私に向かって手を振ったのだ、とようやくわかって手を振り返した。

手を振った女と横に並んで座っていた細身の女が、道路越えて私の横に並んで座った。

「ここで何をしているの?」

と小柄な方が聞いた。

「葉巻をふかしているだけさ」

君たちは何をしているの、と尋ねると手に持ったスマホの画面を私に見せた。“people nearby”というアプリだった。

なんだかわからなかった。

それは何かと尋ねると。

「ドゥー ユー ニード マッサージ?」

唐突だったので、もう一度聞き返なおすと、もう一人の女性が

「メイク ラヴ?」

と言った。

ああ、娼婦だったか。

なんの理由もなく異性に近づかれることはない。

何か目的がある。

そうはわかっていても近づいてくる彼女らに好意すら抱いていた。

「ごめん、今夜はいい」

彼女たちはすっと立ち上がり、こちらにニコリと笑みを向けると、先程まで座っていた通りの向こうの屋台へ戻っていった。

彼女たちに新しい何かや刺激を期待してしまっていた。

もしかするとこんな気持ちが、ひとときの幸福を求めて、男たちに女を買わせるのだろうか。

肉体的な満足ではない、空洞の心を一瞬でも満たすために。

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